blog

雑記:SINCE THE DAYS OF LEMONADE

img001開業してまもなく、設置したばかりの電話が鳴り、それはまったく当然のことなのにいったい何事かとあわててでてみると在庫の問い合わせだった。

「クロセカツミの本はおいていますか?」

電話口の男性にそう尋ねられ、聞いたことのない名前に戸惑いながら、一応在庫データを調べてみてももちろんあるはずはなく、かといって、どのような本なのかを教えてもらうのも、なんだか情けないような気がして、

「すみませんが、今はありません」

と、たまたま今はないといったような、情けない見栄を張ってしまい、電話を切った。

その後すぐ、いろいろと調べてみて、黒瀬勝巳という詩人がかつて京都にいたことをはじめて知った。電話をかけてきた人は、京都の文藝書をあつかう本屋なら、と問い合わせをしてくれたのだろう。自分の無知とつまらない虚栄心に、恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになり、いつかきちんとあつかえるようになろうと、その日から黒瀬勝巳という名前を、頭の片隅においてきた。

それから半年くらいたった頃だろうか、せっかく京都で本屋をやっているのだから、京都の文人・詩人に関しては少しは勉強して、本も集めてみようと思い、業者の市会ではそれとなく探し始めていたときだった。大阪で行なわれた少し大きな市会で、何本かの詩集のくくりの中に黒瀬勝巳が混ざっているのを見つけた。ほかの本もあまりパッとするものではなく、一見地味な口にみえる。本来なら、そういう時こそきっちり札を入れて落とさなければならないのだが、さみしい懐のせいもあって、「あわよくば」という助兵衛な気持ちで札を入れてしまった。結果、僅差で競り負け、私のもとに届くことはなかった。

昨年末、情けないほど貧相ながら、「京都詩壇」という小特集を組んだときも、ほかのご注文にあわせて黒瀬勝巳の詩集をたずねられる方がおり、いよいよどうにかしなければいけないと思った矢先のつい先日、処女詩集『ラムネの日から』を、同業の方からの好意で仕入れることが出来た。

60頁ほどの小さな詩集で、所謂希覯本などではなく、値段も飛びぬけて高いわけではない。それでも多くの人に探され、求められているこの本をあつかうことが出来るのは、とても嬉しい。しかしこれは明日、お探しのお客様へと発送しなければならない。本当は手元においておきたいのだが、本屋である以上そうも言ってはいられないのが残念だ。

黒瀬勝巳はこの詩集の刊行の2年8ヵ月後、自死という道を選ぶ。その後遺稿詩集が2冊出ているが、著作はそれきり。この3冊は、これからも探して行こうと思う。

 


Tags:,
Posted on 2016-02-22 | Posted in blog | No Comments »

Related Posts